院内処方・院外処方とは

お薬を病院の中の薬局で調剤し、直接お持ち帰りいただくのが院内処方、
これに対し医師の診察後処方箋を発行してもらい、処方箋と引換えに調剤薬局でお薬をもらうのを院外処方と言い、このシステムを「医薬分業」と言います。当院では基本的に院内処方でお薬をお渡ししておりますが、ご希望の方には院外処方箋も発行しております。

一般的に医薬分業は
医療機関側にメリットが大きく、患者さんにはメリットは少なく、むしろデメリットの方が大きいと言われています。

これまで厚生労働省は
医療費抑制の目的で、強力な利益誘導政策(院外処方を採用した方が医療機関にとっての経営的なメリットが大きくなる政策)を用いて「医薬分業」を推進してきましたが、平成21年6月の時点で、地域や診療科目によって多少の差はあるものの、診療所59%、病院70%となり、「医薬分業」は厚労省の思惑通り順調に進んでいるように見えます。

「医師は薬価差益で利益を上げる為、患者さんを薬漬けにしている
」という厚労省役人の偏見と思い込みに基づき、強引に推し進められてきた「医薬分業」でしたが、残念ながら「医薬分業」となっても医師から処方される薬剤の量はほとんど変わらず、医師達は適正な薬剤を必要な分だけしか処方していなかったことが証明されたこととなり、むしろ調剤薬局の増加によって医療費を逆に増大させるという皮肉な結果となっているようです。

当院は平成元年の開院以来、一貫して院内処方を採用して今日に至っておりますが、最近市民の間で大変な誤解が生じている事を知らされました。それは「医療機関が院内処方を採用するのは薬価差益で儲ける為であり、院外処方を採用している所よりも利益率が高いのでは?」というものでした。これは実は大変な誤解であり、今現在薬価差益などというものは厚労省が2年に1度行う巧妙な薬価改正により、ほとんど限りなくゼロに近づいているというのがシビアな現実であり、院外処方を採用した方が経営的にははるかに楽なのです。確かに医療機関の窓口で支払う金額だけを比較すると、院内処方を採用している医療機関での支払いの方が多いのでこんな誤解が生じるのかと思いますが、院外の場合調剤薬局でも支払いが発生しますので、たとえ同じ治療を受けたとしても最終的な患者さんの支払額は、院内に比べ3割くらい割高になるという事実は是非知っておいていただきたいと思います。

さて足利赤十字病院は2011年7月1日から競馬場跡地に移転しますが、これに伴い調剤薬局の建物を足利市が建設し開設者を公募したところ、4区画合計の使用料が、年間約1億2700万円となったそうです。(あしかがみ2011年1月1日号市長挨拶参照)

つまり一ヶ所の調剤薬局が一か月約265万円の家賃を払って入居してくれることになったということです。 この数字は私にとって、とてもショッキングであり、苦しい経営を強いられている医療関係者にとって、いろいろ考えさせられるものだったのではと推察されます。 

さてここで院内処方と院外処方の違いについて少し整理してみたいと思います。


院内処方のメリット(患者さんにとって)

① 一ヶ所で診察と投薬が済むので手間や時間の節約になります。(特に骨折や強い腰痛などで動きが制限されていたり、発熱などで体調が悪い時など、診察後、外の調剤薬局まで行くのは大変です。)

② 調剤薬局での手数料分、患者さんの自己負担が少なくて済みます。
(院外処方に比べ、トータルで30%前後安くなります。)

③ 患者さんの状態をカルテや医師から直接確認することができるため、お薬の説明が的確に行えます。

④ お薬の追加・変更・取り消しが、院外処方に比べて簡単にできます。


⑤ 投薬を待っている間、看護師や医師の目が届くので、具合の悪い方でも安心です。


⑥ 常にお薬のストックが院内に保管されているため、夜間や祝祭日の急患にも対応できます。


院外処方のメリット(患者さんにとって)

① 診察後の院内での待ち時間が短縮される。(しかし調剤薬局で、また待たされます。)

② 自分の気に入った薬局に、自分の都合の良い時間に、処方箋を持って行って調剤してもらえる。
(ただし処方箋の有効期限は日曜・祝祭日も含めて4日間です。)

③ 稀にしか使わない薬や薬価の高い薬でも、処方してもらい易い。


④ かかりつけ薬局を持つことにより自分の薬歴を管理してもらえる。
(でも実際は、ほとんどが門前薬局なので、これは単なる「絵に描いた餅」になっているようです。)

⑤ 薬剤師が、薬の説明を時間をかけて丁寧に行なってくれる。

⑥ 難しい調剤や服用方法が難しいお薬を処方する場合、スムーズに対応してもらえる。(分包機の活用など)

院内処方のメリット(医療機関にとって)

① 患者さんの経済的負担が少なくなり、外の薬局まで行く手間が省けることが、目に見えない、患者さんへのサービスになっているという、自己満足を感じられる事。 

② 患者さんに関する、薬を含めたあらゆる情報が一元管理できるので、正確な診断・治療に役立つ。 


院外処方のメリット(医療機関にとって)
  
① 薬局の設備、機材、スペースが不要になる。

② 調剤の手間が省けるため、スタッフ一人分の人員削減が可能となる。

③ 薬の在庫管理がいらない。(有効期限切れの薬剤廃棄による損失が無くなる。)

④ 会計窓口での服薬説明が不要となり、待ち時間の短縮に役立つ。

⑤ 毎日の会計計算とレセプト(診療報酬明細書)作成が簡単になる。

⑥ 薬問屋との薬剤仕入れ値交渉ストレスの軽減。

⑦ 院外処方箋料は院内処方料より高く、収入が増える。

⑧ 医療機関持ち出しの消費税の軽減(薬問屋からの仕入れに際し5%の消費税がかかりますが、患者さんに渡すときには消費税を請求できないので、医療機関は5%損をしています。)

わたなべ整形外科が院内処方を続けている理由

ズバリ、患者さんにとって、あまりにもメリットが大きいからです。

まず院内処方を採用している医療機関で治療を受けた方が、患者さんの窓口負担は
3割前後安くなります。(以下にいくつかの実例をお示しします。)また当院では調剤薬局がそのメリットとして掲げ、実際はほとんど実行されていない様々なプランをサラリと、日常的に行っております。当院を訪れた患者さんなら皆さんお気付きかと思いますが、徹底した薬歴管理が行われております。現在他院から処方されているすべてのお薬を把握し、カルテに記録して、飲み合わせの確認や重複処方の予防に努めております。また患者さんに処方する際も、診察の際、実物のお薬をお示しして服薬指導し、お薬に関する様々な服薬上のトラブルを徹底的に減らすように努力しております。急患や祝祭日に来院された際も院内処方であれば全く問題なくお薬をお出しすることができるのです。(当院では2010年9月より祝祭日も、午前9時から12時までの間、診察およびリハビリが、休日・時間外等の追加負担なしで受けられるようになりました。)

整形外科という科の特殊性を考えた時、院内処方にこだわる理由はさらに明確となります。強い腰痛やヒザ痛で歩行がかなり制限されている、あるいは骨折でギプスを巻き、松葉杖で通院される患者さんに対して、診察後、外の薬局に行っていただくようにお願いすることは私にはできません。雨の日、風の強い日、寒さの厳しい日などはなおさらです。

「かかりつけ薬局」と、「門前薬局」、これは言わば一つの「理想」とシビアな「現実」であります。私は現在の日本においては、かかりつけ薬局は事実上実現不可能と考えております。何故なら、ほとんど9割以上の調剤薬局が門前薬局である以上、処方箋を持って来たすべての患者さんに対応できるような、豊富な薬剤ストックを持つことは、デッドストックを増やすことになり経営的に破綻するからです。また私の経験する限り、薬歴管理はあまり徹底されていないように見受けられます。

先日もこんな実例がありました。当院に10数年来通院されてシビレの治療薬を処方していた患者さんが、
ある日内科の開業医を受診した際、当院と全く同じお薬を新規に処方されました。その方が処方箋を持って門前薬局に行ったところ、そこの薬剤師から「わたなべ整形外科のお薬を服用するのを中止して下さい。」と指示されました。本来であれば処方した内科医に連絡し、わたなべ整形外科から全く同じ薬が出ているので削除しますと言うべき所ですが、門前薬局の悲しさか、利益優先の為か、こういう行動は採っていただけませんでした。これなどはまだいい方で、全く他院の処方内容を確認せず、与えられた処方箋通りのお薬を渡しているケースもあります。実に悲しい現実と言うべきかと思います。もちろんきちんと仕事をされている調剤薬局さんが大半だとは思いますが、余りにも目に余るケースも見受けられます。

またジェネリック医薬品の処方に関してですが、当院では基本的にジェネリックの使用には積極的で
あると考えております。ただし誤解を恐れずに言わせてもらえば、同じような効能・効果を謳っていても、製品の品質管理という点で不安を覚えるようなジェネリックメーカーもあります。

そんなわけで当院では十分吟味して、先発の一流メーカー品とジェネリック医薬品とを使い分けしており、何でもかんでも薬価の安いお薬(ジェネリック)を処方するのが良心的な「医師」あるいは
「調剤薬局の薬剤師」であり、庶民の味方であるという風潮には、多少違和感を覚えております。今後も厚生労働省の医療費抑制策により、院内処方を採用している医療機関の収入が減り続ければ、当院もいずれは院外処方に切り替える時が来るかも知れません。しかし我々は可能な限り最大限の努力をし、当院を支持し来院される患者さんのために、一日でも長く院内処方を続けたいと考えており、足利で最後に院外処方を採用した医療機関 と言われるよう頑張りたいと思います。